レオン・ラッセルの訃報と『A Song for You』におもうこと

その訃報が飛び込んできたのは11月14日午前1時30分のことだった。
レオン・ラッセル死去。紛れもなくリビングレジェントのひとりだった彼が亡くなったというニュースは世界中を駆け巡った。
エリック・クラプトンに多大な影響を与えたことでも有名な彼。カーペンターズに始まり、アレサ・フランクリン、レイ・チャールズ、ジョー・コッカー、ザ・テンプテーションズ、ハービー・ハンコック、ホイットニー・ヒューストン、エイミー・ワインハウス、マイケル・ブーブレなど彼の代表曲である『A Song for You』は多くの著名なミュージシャンにカバーされていて、その数は枚挙に暇がない。しかしそんな中でもぼくにとっての『A Song for You』は彼らではなくダニー・ハサウェイなのだ。
高校生の頃、Skoop On Somebodyという日本のミュージシャンがきっかけでぼくはブラックミュージックに傾倒していった。彼らが本物志向だったこともあり、ダニー・ハサウェイを知るまでに時間はかからなかったが、当時は彼の生きた時代や音楽に込められたメッセージ、その卓越したアレンジ能力には気づいておらず、ただの音として好き嫌いで語っていたと思う。それでも十分すぎるほどに彼の音楽はカッコ良かったのだが、今振り返るとブラックミュージックが好きな20歳前の人間にはファッションのようなものだったのかもしれない。

日本ではダニー・ハサウェイのようなミュージシャンはコアなリスナーにしか知られていない気がしている。先ほど挙げた『A Song for You』をカバーしているミュージシャンの中でもよく知られているのは、カーペンターズ、レイ・チャールズ、ホイットニー・ヒューストン、エイミー・ワインハウスくらいだろう。ダニー・ハサウェイも含めた残りの面々は総じてリスナーライクではなくプレイヤーライクで、そこがくっきり分かれてしまうのが低迷する日本の音楽市場の一端を担うリスナー側の問題点だと感じている。

もちろんダニー・ハサウェイに関して言えば、カバーアルバム『LIVE』の1曲目『What’s Going On』は知名度もあるが、あくまでその曲が有名なのであって彼が聴かれているわけではないと思うのだ。オリジナルアルバムを聴いてこそ、そこに彼の生きた時代や音楽に込められたメッセージがある。『The Ghetto』や『Someday We’ll All Be Free』を知らずしてダニー・ハサウェイを聴いたとは言えないのではないだろうか。わかってるのか、高校時代のぼく。

少し話が逸れたが、ここからはダニー・ハサウェイの生い立ちについて触れていこう。
ダニー・ハサウェイは幼い頃から歌やピアノと関わり、クラシックを学ぶために大学へ入学する。当時のアメリカ社会における黒人の立ち位置を考えると、1945年に生まれた彼が大学に入れたこと、音楽といういわば嗜好品に近いジャンルに傾倒できたことからは随分に裕福な家庭で育ったことが窺える。そしてこのことは彼の音楽活動に深く関わっていると思うのだ。
ダニー・ハサウェイはキャリアの中で多くの白人ミュージシャンの楽曲をカバーした。もちろん前述のレオン・ラッセルも然り。

当時は黒人が白人の楽曲をカバーすることがまだほとんどなかったようで、時代背景を考えると人種差別が当たり前だったアメリカにおいて黒人と白人の間には経済的な事情だけでなく文化的にも軋轢があったのだと思う。特に差別の対象だった黒人からすれば鬱屈していくのも当然で、そのことはジャズにおいて白人が黒人の文化を取り入れたのが1930年代と相対的に早かったことからも窺える。

こういう視点で見ていくとダニー・ハサウェイのカバーも違った意味を持ってくる。たらればにはなるが、もし彼が貧しい黒人の家庭で生まれ育っていたら、もっと白人に対する考え方は鬱屈していただろうし、そうであれば『A Song for You』も『You’ve Got A Friend』も『Yesterday』もカバーされていなかったかもしれない。これらの曲はダニー・ハサウェイを語る上でぼくにとってマストだ。いや音楽を語る上でマストと言っても過言ではない。音楽という芸術的分野において黒人と白人の橋渡しをしたのは紛れもなく彼なのだ。

レオン・ラッセルが亡くなったニュースはあらゆるところで目に、耳にするが、そこにカーペンターズやエリック・クラプトンの記述はあってもダニー・ハサウェイの記述がないのは、レオン・ラッセルが亡くなったことと同じくらい悲しい。このタイミングだからこそ現代ソウルの始祖のひとりであるダニー・ハサウェイに耳を傾けるのも悪くないのではないだろうか。

近頃随分寒くなってきた。じきに色々なところでクリスマスソングを聴くことも増えるだろう。『This Christmas』の季節がやってくるなぁ。