名古屋市野鳥観察館へ行ってきました

野跡》ゴミの埋め立て地とされる危機を免れ、いまではラムサール条約にも登録されている湿地「藤前干潟(ふじまえひがた)」。「名古屋市野鳥観察館」ではこの干潟を訪れる世界中の渡り鳥を観察できます。

名古屋臨海高速鉄道あおなみ線「野跡駅(のせきえき)」の出口を出るとすぐに、南北に走る市道「金城ふ頭線」が目に入ります。金城ふ頭線に沿って北へ100mほど進み、汐留(しおどめ)交番の前の信号を左折、200mほど進んだ先が「稲永公園(いなえこうえん)」への入口です。

入口にかかる橋を渡ると、左手に「名古屋市港サッカー場」が見えてきます。これを見ながらそのまま進み、沿うようにして左折。遊具のある緑豊かな公園を抜けると、右手に「名古屋市野鳥観察館」はあります。

藤前干潟は庄内川、新川、日光川の河口付近に位置しています。潮の満ち干きによって作られた環境はさまざまな生き物にとってオアシスとなっており、国内有数の渡り鳥の中継地として多くの水鳥が観察されてきました。

1984年(昭和59年)、名古屋市はこの干潟にゴミの最終処分場を建設する計画を発表。結果として1999年(平成11年)に計画は白紙になりますが、その渦中の1985年(昭和60年)に「名古屋市野鳥観察館」は建てられました。

館内には藤前干潟を臨む西側に多くの望遠鏡が並び、大きなガラスの窓からは肉眼でも干潟の様子が一望できます。窓の下にあるのは図鑑のように鳥の絵と名前が記されたパネル。詳しくない方でも観察した鳥の種類を見分けられるような工夫が随所に施されています。

また、「名古屋市野鳥観察館」ではしばしば本格的に野鳥観察を楽しむ方と居合わせることがあります。そのような経験も国内有数の観察スポットだからこそ。居合わせた場合には野鳥観察にまつわるあれこれを教えてもらえるなんてこともあるかもしれません。

夏の「名古屋市野鳥観察館」ではサギの仲間が多く観察されます。ダイサギ、チュウサギ、コサギは、総称して白鷺(しらさぎ)とも呼ばれる美しいサギ。その真っ白な姿は国宝姫路城の別名「白鷺城(しらさぎじょう・はくろじょう)」の由来とも言われているそうです。名古屋と金沢を結ぶ特急列車にも「しらさぎ」の名が付けられており、このことからも人々に愛される、馴染みの深い鳥であることが窺えます。

館内にはさまざまな鳥の剥製も展示されています。剥製が展示されているショーケースの中には、「これらの鳥は剥製用に捕獲されたものではありません。事故死してしまった鳥を利用しております。」と書かれたメッセージボードがありました。過去にゴミの埋め立て予定地に選ばれ、貴重な自然を奪われかけたこの場所だからこそ、このメッセージボードには自然保護への熱い気持ちを感じます。

カワラヒワは全長15cm弱ほどの小さな鳥。1年中同じ地域で繁殖や子育てをし、季節的な移動は基本的にしない「留鳥」に区分される種類です。このカワラヒワの巣は「名古屋市野鳥観察館」の外にある松林に落ちていたそう。映像や写真、本の世界ではなく、自然の中で起こったことを実際に間近に見られるのも、環境に恵まれた場所ならではと言えそうです。

「名古屋市野鳥観察館」の西側にある干潟沿いの遊歩道には、藤前干潟を紹介するモニュメントがあります。藤前干潟では年間を通じて170種類もの鳥類が確認されるそうですが、干潟に生息するのは鳥類だけではありません。アナジャコやトビハゼ、ヤマトオサガニといった底生生物も年間で170種類以上が確認されるそうで、「名古屋市野鳥観察館」の望遠鏡からは干潟に生きる底生生物の様子も確認できます。

2002年(平成14年)には、水鳥の生息地として国際的に重要な湿地を保全するための条約「ラムサール条約」にも登録され、藤前干潟の自然環境は世界的にも認められました。

「名古屋市野鳥観察館」を出て南に50mほど行くと、「ラムサール条約湿地藤前干潟 稲永ビジターセンター」があります。藤前干潟のラムサール条約登録を受けて、2005年(平成17年)に建てられました。

館内に入ると目を引くのは、「渡り鳥は地球の旅人」と書かれたこの展示物。藤前干潟を通じて地球全体の環境を守っていこうとするメッセージには考えさせられるものがあります。

南関東から東海を抜けて北九州へと続くエリアは「太平洋ベルト」と呼ばれ、日本の中でも工業的に発達した地域です。「太平洋ベルト」にあたる地域には、国指定の鳥獣保護区がほとんど残っていません。この展示は工業都市と自然の共存がいかに難しいかを物語っています。

 

名古屋という大都市にありながら、数多くの野鳥を観察することができる「名古屋市野鳥観察館」。年間で170種もの野鳥が確認できる環境は、藤前干潟の豊かな自然によって支えられています。もしも藤前干潟がゴミの埋め立て地となっていたら。「名古屋市野鳥観察館」の歴史は藤前干潟の歴史でもあります。「名古屋市野鳥観察館」の望遠鏡は、野鳥だけではなく藤前干潟の歴史も見つめてきたのかもしれません。